先日飛び込んできたニュースです。精神保健福祉法と直接関わる内容なのでコメントを残したいと思い記事にしました。
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精神科病院入院をめぐる報道の概要
東京都八王子市にある精神科病院「滝山病院」において、職員らによる患者に対する暴行の疑いですでに逮捕者が出ています。
安全であるはずの病院で起きたこの事件は世間に大きな衝撃を与えましたが、この病院に入院歴のある50代男性が、埼玉県所沢市の市職員と病院職員を監禁の疑いで刑事告訴したと報道されました。
この男性元患者は、2018年に当該病院に医療保護入院になった際に、姉である家族と連絡が取れる状態にも関わらず、手続きを行った市職員が家族と「音信不通」という内容の書類を作成し市長同意にて入院しました。
報道によりますと、元患者の姉は、入院の翌日に男性の担当ケースワーカーから入院した旨の連絡を受けたとのことです。そのため、市職員が作成した書類について、家族と音信不通と記載された内容は虚偽であるとの疑いがもたれています。
市側も病院側も捜査に協力する旨のコメントは出していますが、詳細は語られていないため現段階ではおもに被害者側への取材に基づいた報道となっています。
仮にこの内容が全て事実だとすれば、厳正に患者の人権を重んじる精神保健福祉法を完全に無視した強制入院といえるでしょう。精神保健福祉法上の入院形態の要件を満たしていない以上は、むしろ入院ともいえず、不当に監禁した罪に問われて然るべきだと思います。
入院手続きの問題点
私がこの報道を知りまず感じたのは、市の担当部署に精神保健福祉法の知識が不足していたのではないかということでした。個人の人権に関わる手続きなのでまさか知識不足など疑いたくもありませんが、精神保健福祉法を理解していながら市長同意の手続きを取っていたらそれはそれで大問題です。
そもそも大前提として市長同意入院は、家族の存在がいたらとれないものです。
家族がいたとしても例外的に市長同意入院になり得るのは、同意者となる家族が心神喪失等の状態にあり意思表示ができない場合か、行方不明等の場合に限られます。
一時的に連絡が取れないだけの場合、市長同意はとれません。
これは現行の法律で、法律改正により令和5年4月以降は、患者に対し虐待・DV等を行った者は医療保護入院や退院請求を行うことができる家族等に含まれなくなります。
さらに令和6年4月以降は、市長同意入院の要件が一部変更になり、家族がいても個別の状況により市長同意が取れるようになります。
しかし要件変更の改正後においても、家族がいて市長同意となり得る可能性があるのは、例えば長期間疎遠であったために本人の利益を鑑みて同意・不同意の意思表示をすることが困難な場合などに限られるようです。
実際に私が精神科病院時代に遭遇した市長同意入院のケースで、事前調査では身寄りがないと思われていた患者さんに家族の存在が明らかになったため、市側で同意の手続きが一時中断したケースがありました。
結果的には家族は居所不明と判断されるに足りる根拠があったため、患者さんは市長同意で入院をされました。
このように本来病院と市の担当者は市長同意の手続きをする際には、患者さんが対象になるかの調査や確認の手順をとらなければなりません。
事件の全体像は明らかになっていませんが、万一適切な手続きがとられないまま市長同意が行われたとすれば、制度の運用上問題があり重大な人権侵害にあたります。
市長同意入院は、例えば身寄りがない方などで早急に入院治療が必要とされる場合、病状などにより本人の入院同意が取れないときに速やかに医療につなぐ役割を持っています。
制度の誤った運用で犯罪と結びつくようなことがあっては絶対にならないと思います。
市長同意入院についてはこちらの記事にまとめています。