こんにちは、精神保健福祉士のちあきです。
精神保健福祉士として、国が精神保健の分野でどういう動きをしているのか知っておくことは大切です。令和4年中に厚生労働省から提出された「障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する案」が可決され成立しました。
精神保健福祉法も改正案の中に含まれます。
改正案にはこれまでと大きく変わる点もあり、精神保健福祉士の仕事の範囲も拡大される見込みです。
令和5年4月からすでに施行されているものと、令和6年4月施行予定のものを整理しています。
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精神保健福祉法改正案の要点
改正案の概要
障害者の日常生活および社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律の概要は次のとおりです。星印をつけたのは精神保健福祉法が関係する項目になります。
概要の後に、精神保健福祉法、精神保健福祉士業務に関わるところ(星印)を抜粋しました。
- 障害者等の地域生活の支援体制の充実 ☆
- 障害者の多様な就労ニーズに対する支援および障害者雇用の質の向上の推進
- 精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備 ☆
- 難病患者および小児慢性特定疾病児童等に対する適切な医療の充実および療養生活支援の強化
- 障害福祉サービス等、 指定難病および小児慢性特定疾病についてのデータベースに関する規定の整備
- その他
精神保健福祉法等が関係する項目
精神障害者・精神保健に課題を抱える者の支援について
1.障害者等の地域生活の支援体制の充実 より
令和6年4月から
- 市町村等が実施する精神保健相談支援について、対象者を精神障害者のほか精神保健に課題を抱える者にも拡大
- 精神保健福祉士の業務として、精神保健に課題を抱える者に対する相談援助を追加
医療保護入院の見直し
3.精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備 より
令和5年4月から
- 入院時、患者本人への書面による通知に「入院措置を採る理由」 を追加(措置入院も同様)
- 患者本人に虐待・DV等を行った者は「家族等」から除外する
令和6年4月から
- 市長同意入院において、家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも医療保護入院を可能とする
- 医療保護入院の入院期間を定め、一定期間ごとに入院の用件の確認を行う(定期病状報告に代えて更新制度を創設)
- 医療保護・措置入院者を対象に、退院支援を行う相談員を選任
- 退院支援における地域の福祉等関係機関の紹介について現行の努力義務から義務化とし、措置入院者も新たに対象とする
「入院者訪問支援事業」 創設
3.精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備 より
令和6年4月から
- 市長同意入院者を対象に指定の研修を修了した入院者訪問支援員が、患者本人の希望により精神科病院を訪問し、本人の話をていねいに聞き、必要な情報提供等を行う 「入院者訪問支援事業」を創設し、都道府県の任意事業として位置づける
精神科病院における虐待防止に向けた取組の推進
3.精神障害者の希望やニーズに応じた支援体制の整備 より
令和6年4月から
- 職員の虐待を受けたと思われる患者を発見した者に、都道府県に通報することを義務付ける
※障害者虐待防止法の通報先は市町村 - 都道府県は精神科病院の虐待状況について毎年公表する
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市長同意入院の要件見直しについて
現行の市長同意による医療保護入院は、原則として家族がいないことが要件となっています。
家族がいたとしても、心神喪失等の状態にあるため意思能力がなく同意ができない場合は市長同意入院が可能となります。あるいは、戸籍上で確認できる家族がいたとしても行方不明などの場合は市長同意入院は可能となります。
この場合の行方不明とは、戸籍上の家族と連絡を取る手段がないことを指し、一時的に連絡が取れない状況は行方不明にあたらないとされています。
直接連絡をとる手段がない →行方不明にあたる →市長同意可
一時的に連絡がとれない →行方不明にあたらない →市長同意不可 (現行) 改正後は?
見直し内容では、 家族が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも市長同意入院を可能にするとされています。先の例で、 家族と一時的に連絡がとれない場合は、 現在の法律では市長同意入院はできないとされています。
令和6年4月以降はどうなるのでしょうか。一時的に連絡がとれないケースは、おそらく現行と同様に市長同意入院はできないのではないかと私は思います。
見直し内容の市長同意入院ができる例として以下が挙げられています。
(例) 20年以上親交のない遠方の家族等 本人の利益を勘案して同意・不同意をすることが困難
現行は、所在が確認できる家族がいて同意が得られなければ医療保護入院はできません。市長同意入院もできないことになります。
上記の例で 「遠方の家族」 というのは所在がわかっているため行方不明というわけではなさそうです。改正後は、たとえ家族がいても疎遠などを理由に意思表示をしなければ市長同意入院が可能になる見込みです。
要件緩和により、改正後は患者本人が速やかに入院治療を受けられるようになることが予想されます。 その反面、入院時に同意・不同意の意思表示を行わなかった家族が、 入院後に 「不同意」 の意思を示してもめ事になりはしないか気になります。
(2023年3月8日追記)
要点でもふれましたが、令和5年4月から医療保護入院の同意や退院請求ができる「家族等」の要件に患者本人に対して虐待・DV等を行った者は含まれなくなります。
例え家族がいたとしても、その者が患者本人に虐待等をしていて、ほかに同意者となり得る家族がいないときは市町村同意による手続きが可能にになります。
退院支援を措置入院に拡大
現行の法律では医療保護入院の退院支援をする者として「退院後生活環境支援相談員」 が選任されます。 退院後生活環境相談員という表現は見当たらないものの、改正後は措置入院者も退院支援を行う相談員が選任されます。
また、退院支援にあたり地域の福祉等関係機関の紹介が義務化されますが、これは現行努力義務の 「地域援助事業者等の紹介」 が義務化されるものと思われます。
ほかにも、入院時に本人に書面で通知する内容に 「入院措置を採る理由」 の追加、定期病状報告に代わる更新制度の創設が改正案に含まれるなど、精神科病院に勤務している方にとっては業務内容が各場面で変わりそうです。
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入院者訪問支援事業の創設について
こちらは市長同意入院者を対象に患者本人の希望により、外部との面会交流の機会を確保するもので都道府県の任意事業として位置づけられます。
孤独感・自尊心の低下を軽減し、権利擁護を図ることとされていますが、最初この案をみて面会交流の目的に不明瞭な印象を持ちました。
主治医がおり、退院支援を行う担当の相談員がいて、治療方針や支援方針に基づいて支援が行われている過程で、 外部からどのようにアセスメントをたてて支援をするのかイメージが難しいように思います。
市長同意入院において、本来は入院の同意後に市町村の担当者が本人に面会することとなっています。 その後も、 市町村の担当者が面会等を行うことにより、本人の状態や動向の把握に努めることとされているため、適正に運営されていれば外部との面会の機会はすでにあるといえます。
また 「入院者訪問支援員」 がどのくらいの頻度で患者本人を訪問するのかわかりませんが、面会交流という表現からは長期入院者を前提としている印象がぬぐえませんでした。
病院は治療を受ける場であり日常生活を送る場所ではないため、症状が改善するとともに退院支援に向けていく、 可能な限りの早期治療・早期退院が患者本人の人権擁護により結びつくと考えます。
(2023年2月6日追記)
執筆当初、面会交流の目的が不明瞭な印象と表現しましたが、新設の改正条文「入院者訪問支援事業」を読んだところ、新事業の目的は「権利擁護」であることが理解できました。
患者本人と面会する入院者訪問支援員はアドボケイターとしての役割を期待されているため、支援という言葉から私が頭に浮かべた福祉や精神保健における継続支援とはまたちがったもののようです。
入院者訪問支援員の条件は、標準化した研修を修了した者とされており経歴等をふまえて選任されます。専門職の資格条件は規定されていません。
正直にいうと資格等の制限がない点については驚きました。医療や福祉の相談援助の専門資格なく、入院患者の生活に関する一般的な相談に応じ情報提供を行うのは容易ではないように思います。
患者本人の権利擁護は、実現のため行動を起こすことが必要な場面も出てくると思います。地域への退院支援を含め本来は専門職が担うべき役割ではないでしょうか。
精神科病院に虐待防止の取組みについて
精神科病院において入院患者への虐待で職員が逮捕される事件が、令和の時代にもなお起きていますが、 精神科病院以外でも、保育士による園児への虐待で職員が逮捕される事件がありました。
いずれも虐待により職員が逮捕されています。神戸市の精神科病院の事件においては暴行、監禁、準強制わいせつなどの疑いで逮捕され6人が有罪判決を受けました。
都道府県への通報の仕組みや実地指導が虐待の防止に効果的にはたらくことを期待しますが、虐待そのものを処罰するものではありません。
暴行や故意の傷害など明らかに犯罪に匹敵する行為については、すみやかに事件として扱われるべきです。
以上が改正の概要と、それにまつわり思うところを一精神保健福祉士として意見をまとめました。
精神保健福祉法の改正はあまり大きなニュースになりませんが、特に精神保健福祉士の方、また関係する業務に携わっている方は今のうちに理解しておくと安心です。